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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯

いやはや、不気味でおもしろい本だった。

18世紀のイギリス。

当時はまだ古代ギリシャの医学知識が継承され、

瀉血、吐瀉、浣腸という吐き出す治療法しかなかった時代。

麻酔の技術もなく、人体を切り刻む外科医は下劣だとされ、

床屋がおできなどを切開していた。

そんな時、現れたジョン・ハンターというスコットランド生まれの外科医。

学校の勉強が嫌いで書物の知識を信じなかった彼は、

こうした古臭い治療法を頭から信じず、

自分で動物や人間を解剖し、体の仕組みを確かめていく。

たかだか200年かそこら前の話だ。

現代だったら考えられない治療法がまかり通り、

キリスト教的思想や迷信などによって

肉体にメスを入れることなど考えられなかった時代。

ハンターはダーウィンの『種の起源』より70年も前に進化論を唱え、

聖書に基づいた生物の創生を否定し、

移植など現代につながる新技術の先鞭をつけていく。

ヘタすれば殺さねかねない状態だったはずだし、

相当荒っぽい“実験”だったことは、

実験道具の死体確保のために、裏では死体泥棒ビジネスに

加担していたことからもうかがえる。

表玄関は上流階級の客人が出入りし、

裏口はこういった闇取引現場となっていたハンターの邸宅は、

スティーヴンスンの『ジキル博士とハイド氏』の

家モデルにもなったというエピソードなど興味深い。

遺体だけでなく、おびただしい数の生きた人間や動物が、

はっきりいって実験台になって死んでいったことだろう。

そのおかげで、現在の医学がある。

あの時代に生まれてなくてよかった~。

人骨やアルコール漬け臓器、希少動物の剥製などが

ゴロゴロしている家の描写はさながら怪奇小説のようで、

大変におもしろい読み物だった。

どの世界でもそうだが、殻を破るこういう異端児が

いたからこそ、すべては進歩してきたのだとつくづく痛感する。

ウェンディ・ムーア著、矢野真千子訳(河出書房新社)

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