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隅田川暮色

時は昭和35年。

まだ、戦争の記憶が残り、

その中にも、新しい日本へと歩みだしている時代。

東京大空襲で父を亡くした冴子は、

隅田川沿いに家のあった、組紐を扱う旧家の娘。

やはり組紐旧家の跡取りであるのに、

継がずに大学に勤めている悠と

戦争中に、ほとんど駆け落ち同然に家を飛び出し、

本郷の暗い家で、ひっそりとひと目を忍ぶように暮らしている。

悠には別居していて離婚に応じない妻と娘がいて、

組紐の知識・技術のある冴子は、悠の実家を手伝いつつも、

嫁でもなし、他人でもなしという微妙な立場。

その本音をくみ取ってくれるのが、

冴子の幼馴染で、紐を染める紺屋の息子・俊男。

俊男には妻子がいるが、冴子と俊男の間には、

友人や男女を超えたような、なんとも微妙な空気が漂っている。

冴子に年上の女性への思慕を抱き、

そんな冴子と俊男の雰囲気にいち早く気づく、悠の甥・響一、

憎まれ口をたたきながらも、すべてを見通しているような

悠の祖母・加津。

伝統と受け継ぐ職人としての矜持と節度を持つ、

悠の父・真造、俊男の父・元吉。

冴子を取り巻く、老若男女さまざまな人間模様が、

隅田川のうつろいと共に日々流れていく。

なんて、日本人的な小説なのだろう。

静かで、切なくて、といって、どこか妙にエロい部分もあり、

抑えきれない情感が、ところどころほとばしる。

読んでいて、怖いのだ。人間の情感が。

よくあるパターンと片付けられない緊張感がある。

人生の中で、今の生き方ではない、

もうひとつの正反対の生き方というものを考えることは、

誰しもあるけれど、

現実には無理と思って、やはりいつもの生活に戻るのが普通。

そこのところを、“現実とそれとの落差から、

新しいものが生まれることがある”という言葉で表す。

いつだって、ふたつの世界のせめぎあいをして、

悩み苦しむのが人間。

一字一句、線を引きながら、じっくり読みたい本である。

一生、そばに置いておきたい本である。

芝木好子(文春文庫)

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